今回の「糞シリーズ」は、古くより日本人は特に馴染みが深く、捨てるところなしと謳われる「鯨」です。当然、糞も利用可能と言われています。反捕鯨などの意見が存在するのは重々承知の上で今回はご紹介させていただきます。推奨や啓蒙ではなく、歴史・文化的な側面でお届けして参ります。
肉は食べて、油はつかって、ヒゲは歯ブラシに!
まさに捨てるところなしと言えるのが、鯨です。その巨体からとれる鯨肉や軟骨をはじめ、食用以外にもヒゲや歯は将棋の駒や櫛、歯ブラシとして活用され、毛は網に使われ、皮は鯨油、筋は弓弦、鯨骨は鯨油や肥料、血は薬用、糞は香料など、とにかくさまざまな用途に用いられてきました。古くから鯨は親しまれてきたため、人形浄瑠璃のあやつり人形のバネは、今でも鯨ヒゲが使われています。精妙な首の動きは、弾力に富んだ鯨ヒゲでなければ出せないとも言われています。最も有名な鯨肉についても、1832年には鯨の約70もの部位について調理法を記した「鯨肉調味方」が出版されるほど。貴重なタンパク源として縄文時代から知られており、皮、五臓六腑までいただく食文化が日本では根付いています。
CHANEL No.5はマッコウクジラが生みの親
マッコウクジラからは竜涎香(りゅうぜんこう・別名:アンバーグリス)と呼ばれる腸内で作られる結石、消化できなかった餌が結石化したものが存在します。この結石はクジラの体内から排出され、長い時間海を漂い、海岸に打ち上げられることによって発見される流れのため、頻度が非常に少ないことから希少な香料とされています。その香りは、「海と動物的な匂いを含んだ甘い香り」とされ、他の香りを持続させる保香効果も持っているため、高級な香水にも用いられてきました。それがかの有名なCHANEL No.5と云われています。生成されたばかりの時点は良い香りではなく、熟成が進むにつれて魅力的に変化してきます。香料以外にも神経や心臓の調子を整える効果がある漢方薬としても重宝されています。「鯨の糞が香料に…」というのは、この件を指しているのでしょう。
健全なる海は鯨の糞によって成立する?
消化できなかったものが集まり結石となったものが香料となる話をしましたが、実際は糞ではないため「本当の糞はどうなのか? 」をお伝えしていきます。ある学者によれば、鯨の糞はとても重要なものだと言います。それは、プランクトンの成長を助けるから。鯨は、深海の魚や生き物を食して海面で糞をしたり、行動範囲が広いためにさまざまところで糞をしたりします。そのために、世界の海を旅しながら、養分を集めてはバラまくことを自然と行っているのです。鯨によって分散された養分は、肥料の働きをしてプランクトンの成長を支え、海に暮らす多くの生物の暮らしを支えることになっています。さらに、プランクトンは地上の植物と同様に、生きていくのに必要なエネルギーを光合成によって得ています。つまり、大気の組成を現在の地球に暮らす生物にとって適切な状態に保つのに役立っているのです。推計によれば大気中の酸素の50~80%はプランクトンによって生みだされたもの…であれば、鯨の糞が私たちの生活を支えているという見方もできるということですね!